横浜への珍客①
- あんだんてぃーの
- 2017年3月7日
- 読了時間: 6分
2017年冬、横浜が熱い!!
いや、寒いから(即答)
というわけで、なーぜか今年の冬は横浜に珍客が多いなぁ…ということで、ご多分に漏れずですね、当方も迎撃へ行ってまいりました。
まずごちゃごちゃしたことはおいといて、ご覧いただきましょう!

【ナッチャンWorld】
・定係港:函館
・製造:インキャット社 ホバート造船所
・所有:高速マリン・トランスポート株式会社
・総トン数:10,712トン
・全長:112m
・全幅:30.5m
(2017年2月28日 横浜港入港)
かつて津軽海峡の往復を高速化した立役者。悲運の高速船は、今や第二の人生として新たな生活を歩みだそうとしています。
もう、この見た目。すっごいよね。インパクトありまくりのシルエット。そして案外デカい!

横浜入港は3回目となりますが、過去2回と違って、喫水線下のカラーリングが赤の防錆塗装になってます。
さて…この「ナッチャンWorld」、悲運の船として有名です。
悲運というかなんというか、生まれたタイミングが悪かった船なんだなぁ…。
2007年9月、「World」就航に先立って姉妹船の長女「Rera」が津軽海峡航路へ導入。夏期には2時間を切る高速っぷりで、本州と北海道を結んでいました。
その半年後の2008年4月、「World」が導入され、津軽海峡航路の高速船は2隻体勢に。当時は「Rera」と「World」がすれ違うというダイヤも話題になりました。

側面のカラーリングは「世界中のみんながパレードする」をコンセプトに、小学生の描いた賑やかな絵がそのままペイントされました。船名の「ナッチャン」も、小学生のあだ名からとられるという、なんとも微笑ましい素敵な船です。
……今、果たして「ナッチャン」の名付け親になった子は、どこでどう過ごしているのでしょうかね。ちょっと気になります。
そんなことはさておき…当時「ナッチャン」を運行していた東日本フェリーは、この2隻の運行によって、苦境に立たされてしまいます。
燃料の原油の高騰。それに伴う運賃加算。在来船との運賃格差。
これらにより、特に車両輸送においては、「ナッチャン」姉妹は本来のカーフェリーの役割を果たせずにいました。
結果、東日本フェリーは2008年度期において約50億の赤字を抱えることとなり、事業撤退。
「ナッチャン」姉妹もその余波に飲まれ、「World」に至っては就航からたった半年あまりで運行休止の憂き目を見ることとなりました。
しばらく、姉妹は函館・青森それぞれに留置されることに。
しかし「World」は翌年から夏限定で、道南自動車フェリーが借り上げて運航。2012年の夏まで、見事な復活劇を果たしました。
さて、長女の「Rera」はというと、台湾へ回航、売却され「麗娜輪」と改名、第二の人生を歩んでいます。
2013年夏は運行されなかった「World」。その水面下では、以下のような計画が進んでいました。
「自衛隊による離島奪還作戦に不可欠な高速輸送艦艇としての活用」
これは、2011年に報道されたもので、「Rera」「World」ともに検討されていたものですが、どうやら1隻の導入で事足りると判断、「Rera」は売却に至ったのでしょう。
そして2012年、防衛省は「World」を大規模災害への即応、という名目で借り上げます。これが、後の「PFI法」適用につながっていきますが、それは後段にて。

ここで一度「ナッチャンWorld」という船をじっくり見ていくとともに、少しずつ解説していきましょう。
特徴的な船体、一見トリマラン(三胴船)のようにみえるそのシルエット。空力性能を意識したような船首。すべてが独特な形状をしています。
これは、造船会社の「インキャット社」独自の船体で「ウェーブ・ピアーサー」と呼ばれています。
※あくまでウェーブ・ピアーサーは船型方式の一つとして区分されていますが、インキャット社が製造を一任しているというのもあり、このような表現にしています

正面から見てみると、トリマランなようにみえて、実はカタマラン(双胴船)なんだなということがよくわかります。
中央部は凌波性を考慮したフロート状になっており、特に制御装置や動力装置がついているわけではありません。
こうしてみると、後部が見えないせいもあり、全然容積がないようにみえるわけですが…よくもまぁ車両甲板があそこまで広いなぁと思ってしまいますね(笑)

「World」の後方の様子です。両舷はウォータージェットエンジン。
後部甲板は、現役時代はまるっと車両ランプになっていましたが、現在は左舷に専用の小型ランプが取付けられており、印象が全然異なります。
側面のファンシーな印象と違って、やたらとメカメカしい印象がある…なかなか素敵ポイントだと思うんですよ、これ(笑)
さて、防衛省に借り上げられた「World」。船籍は東日本フェリーから津軽海峡フェリーへと譲渡されて、自衛隊の訓練などに活用されます。
実は、借り上げ前の2011年から、訓練には参加してたんですが…ちょうど、輸送艦使用検討の報道があった時期ですね。
そして、時は2016年。PFI法適用により、「World」は高速マリン・トランスポート株式会社の所属となり、本格的に自衛隊の支援船舶として活動を開始することになりました。
このPFI法、一体どういうことなのでしょうか?わかりやすく言えば、下の図式のようになります。
※やっつけ仕事に近い形で作ったので見にくくて申し訳ない!あと、多分合ってると思うけど間違ってたら指摘お待ちしております!

つまりは、普段はあくまで民間会社が受託して自衛隊の物資を輸送するけれども、なんかあったら自衛隊に船を明け渡して、自衛隊の好き勝手に使っていいからねっていうのが、PFI法に基づいた運用ってことですね。
(その条件を請け負っている高速社ってのが、登記簿的に双日の本社で、事務所も存在しないとかどうのこうのっていうしんぶん赤旗的なネタは目をつぶっておきましょう、はい。静かにしとくのが何事も大切です)
だからこそ、柔軟な対応が可能になるという話ですが、問題がありまして。
有事の時、自衛隊で運航するわけだけども…
………誰が操船すんの?
はい。一応民間船舶なので、自衛艦艇とは扱いが違うわけで。大型旅客船の操船って、多分いろいろと変わってくるわけですよ、いろいろと。
一応、防衛省としての思惑は「民間に在籍する予備自衛官補を操船にあてる」ということで予算も盛り込み済み。高速社にも「積極的に予備自衛官の採用を促したい」としているけれども。けれどもけっれーど。だけどもだっけーど。
実際、そんなにうまくいってない感じがします。どうするんでしょうね…
これからの運用計画次第だと思いますが、もし何かあった時、いったいどうしていくのか…なかなか注目案件です。
そんなこんなで横浜に来港した「ナッチャンWorld」。
船内見学の様子などもお伝えしていきたいんですが、あんまり長々と書いても仕方ないので、このあたりで締めようかなと思います。

鳴り物入りで導入された、タスマニア生まれの高速船「ナッチャンWorld」。
まさに「数奇な運命」を辿って、今は第二の人生を歩みだそうとしています。
それがいいことなのか、悪いことなのか、私には分かりませんが…
少なくとも、船にとって「走り続けること」「活躍の場が与えられること」はありがたいことかな、と思っています。
この横浜来港が、新たな人生の門出となること、そして今後の活躍の舞台への1ページになることを、一人のお船好きとして願ってやみません。
日本に今、2隻しかいない「ウェーブ・ピアーサー方式」の高速船。その存在を、読者の皆様の記憶に留めていただけると、ちょっぴり嬉しいかな。
………日本のもう一隻の高速船ってどこに?
高速船「あかね」で検索検索ぅ♪
おまけ。

ほら!!ナッチャンの後部構造、実にエモくない!?すっごくエモくない!?
次回の記事ではナッチャンと同時に横浜へ来港した新造船、そしてその後現れた北海道航路の新型船をお届けします!お楽しみに!(多分明日更新するよ!)
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